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独り言のようでもあり、電話口に話しかけたようでもあった。中間のような話し方だ。 「もう閉店ギリギリですからね。仕方ないです」 「それもそうか」 なんだか電話していると、一緒に買い物をしているような気になって、楽しかった。 レトルトカレーと、閉店間際まで誰にも買われず売れ残っていたカキフライの惣菜を買う。 「友哉さん」 レジで会計を済ましている最中、静かに俺の名前を呼ぶ。 「ん?」 「……なんでもないです」 「なんだそれ。なんかある声してるぞ」 「……日曜日に言いますね」 「今じゃダメなのか?」 「そうですね。仕事でもプライベートでも、電話じゃダメなことってあるじゃないですか」 「まあ……ある、か?」 「ありますよ。だから、日曜日です」 支払いを終えて、スーパーを出る。 夏に近づいている、春の夜の風と、菜奈の声が、どうしようもなく、心地良い。 「電話してると、時間が過ぎるの早いよな」 ひとりで黙ってスーパーで買い物して、家に帰ると、どうしようもなく長く感じるのに、菜奈と電話していると、やけに時間が過ぎるのが早く感じた。
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