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「もう、お家着きますか?」 お家、という言い方がとてつもなく可愛かった。 「うん。今マンションの前」 「じゃあ、また明日ですね」 電話を切るのが、名残惜しい。 菜奈もそう思ってくれてたらいいなと思う。 ちょっとくらいは同じ気持ちだろうか。自惚れか。 「うん、また明日な」 電話を切ると、一気に虚無感が襲ってくる。 ひとりには慣れてるはずなのに、こんなに寂しいものだったかと、菜奈と電話をするたびに思う。 夏だろうが冬だろうが、湯船には浸かることにしている為、浴槽を洗う。 お風呂を洗い終えた時、会社携帯が鳴った。 着信音が全く違うので、会社携帯はすぐに分かる。 この時間に仕事の電話かよ、とかなり憂鬱になりつつ、鞄の中を探る。 登録してない番号だった。余計にため息が出る。 「はい、浦沢メディカル伊藤です」 少し声のトーンが低いのを自覚する。そりゃこんな時間に仕事の話なんてしたくない。 「あっ、えっと……伊藤友哉さん、ですか?」
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