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手を上げて微笑むと、菜奈は止まって軽く頭を下げていた。 ニコッと微笑むその顔で、一日の仕事の疲れなんて、何処かへ消えてしまっていた。 「お疲れ様です」 「菜奈もお疲れ様。ここで会うのは初めてだな」 「そうですね、女性に囲まれてる所は何度もお見かけしてますけど」     苦笑いをするほかなく、頭をかく。 「好きで囲まれてるんじゃないぞ」 最近では、菜奈に見られたら嫌だから、短めに退散するようにしている。 米粒ほどの小さな努力だけど、報われることを願っている。 「モテるなぁと思いながら、いつも横を通過してます」 「そういう菜奈だって、最近社外の男に話しかけられてるの知ってるぞ」 これは、完全に嫉妬だ。 菜奈が男に囲まれている時の状況を思い出し、顔が強張るのが分かった。 中々独占欲高めな事に、最近気がつく。 放っておくと、菜奈が取られてしまうという危機感が、最近猛烈に襲ってきていた。 「私も好きで囲まれてるんじゃないですよ。うんざりしてるんです」
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