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私が車を降りると、いつもは降りない雅樹もエンジンを切って降りてくる。 「どうしたの?」 「……やっぱり家の近くまで送るよ」 そう言って、車を置いて歩き出す。 「え、車は大丈夫なの?」 「5分くらい大丈夫でしょ」 ふたりで並んで歩く。少し様子の変な雅樹が気になる。 係長のマンションを少し通り過ぎたところで、急に雅樹が立ち止まった。 さっきまで周りにいた人混みは、駅を離れるにつれて少なくなり、今はふたり以外は誰もいなかった。 「……どうしたの?車心配だったらここで大丈夫だよ?」 俯く雅樹に言う。5分くらい大丈夫でしょとは言いつつも、やっぱり心配だったのかな。 「……ごめん、菜奈。別れよう」 世界が止まったような気がした。 周りの揺れる木も、遠くに見える人の影も、何もかもが止まって見えた気がした。 私と雅樹以外、時間が止まったような、そんな感覚。 言われた事の意味は分かるけれど、それに対する返事が出てこない。
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