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「えっと……それって」
「……ごめん」
申し訳なさそうに謝る雅樹。
謝られると、ますます言葉が出てこなくなる。
ひとつ深呼吸をして、落ち着く。
止まっていた周りの木々も、人の影も、さっきとは違って動き出していた。
「理由を聞いてもいい?」
俯く雅樹。言いづらい事があるんだなというのは、何となく察した。
「理由を聞かずに別れる方が嫌だから」
そう言うと、顔を上げてこっちを向く。
「好きな人がいる」
その好きな人は、当然ながら私じゃないんだろうなと思うと、悲しくなる。
「……そっか。今日様子がおかしかったから、何かあるのかなとは思ってたけど」
「結婚を前提に付き合いたいと思ってる」
はっきり言われた言葉は、私を徐々に暗闇に引き摺り込んでいく。
そう思われていたのは、私じゃなくて違う女性だったという事実が、まだ信じられなかった、
後ろで砂利を踏む音が聞こえた。通行人だろうか。
あまり見られたくない場面だけれど、今は話に集中しないといけない。場所を移す余裕はない。
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