天国への道しるべ

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僕の街は、今ある噂で溢れている この街のどこかの曲がり角を曲がると天国へ 繋がるという噂だ あたかも信じられない噂だが、ある出来事が 話題をさらっていた 末期の病に冒された初老の患者が、病院を抜け出し 彷徨い歩いていた時の事。夜中にも関わらずその 曲がり角から溢れる強烈な光線は、不気味な程の 雰囲気を醸し出していた 患者は、恐る恐る近づき曲がり角の壁から通りを 覗いてみた。そこは、一面花畑だった。街なかに いる筈なのにと不思議に感じた患者は、吸い込まれ そうな感覚に襲われたが踏ん張り曲がり角から顔を 引っ込めた。目をつむり息を殺してた患者が再度 その目を見開き角から覗くとそこは、街そのものの 光景に戻っていた。 たがその直後その患者は、病室で静かにこの世を 去った 患者が書き残したその出来事を記した手記を、身内 が新聞社へ売った事で騒ぎになり、噂は、あっと いう間に世間へ広がり流れ者が溢れる街へ様変わり してしまっていた。だがどんなに歩いても見つから ないと諦めた一団は、3日と経たずに街を後にした 騒ぎが一段落した所で僕も夜の街に繰り出した もしもそんな曲がり角が本当にあるとしたら・・・ もしもその曲がり角に直面できたら僕は一体どう なるのか。吸い込まれたら死ぬのか。不安と期待を 抱え街を当ても無く歩き続けた。ふくらはぎに痛みが 走り出す程に歩いた頃、目と鼻の先の曲がり角から 流れる強い光景に気が付いた。足早に近付いて見る この壁の向こうに本当に天国が?覗く勇気が中々 出ない僕の視線の先に人影が伸び思わずギョっとした 天国からの案内人か、宇宙からの侵略者か、単に街を 徘徊する住人か心拍数がハネ上がる感覚に襲われた ところで意識を失った 目覚めた場所は、天国でも実家でもなく病室だった あの出来事は? あの人影は? あの後は? 「君は、天国の道しるべに遭遇したんじゃないかな」 担当した先生の意外な言葉に僕は、言葉を失った 「この病室ね、例の患者さんが、入院してた部屋 なんだ。亡くなる直前に話してたよ、あそこは天国 の道しるべだってね。」 「じゃあ何で僕は死ななかったのかな?」率直に 感じた疑問を先生にぶつけてみた 「花畑を見なかったからじゃないか?分からない けど。」 先生の話に納得出来ない僕は、きっとまたその 道しるべを探しに行くだろう。この目で確かめ ないと気が済まない性格だから仕方がない。 この想いがまさか、あんな出来事にリンクする なんて・・・その話は、また別の話。
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