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再び人間の世界へ
――1年後
巳之吉は母親とともに、薪を売り歩く生活をしていました。彼は約束通り、あの夜のことを誰にも言ってはいませんでした。
雪女の世界から絶えずその様子を観察し、その誠実さに惚れたゆきは、長に問いました。
「長さま、私はあの方を好きになりました。下に行くことを許してはいただけないでしょうか?」
すると彼女はにっこりと微笑み、
「ええ、貴女が惚れたのならそうしたらよろしいと思います。しかしもし彼が、あの夜のことは誰にも話さないという約束を破るようなことがあれば、すぐに帰って来るのですよ」
許しを得たゆきは人間の世界へと降り、彼のもとへ向かいました。
長の隣には産まれたばかりの赤ん坊と、昨年迎えた二十歳ぐらいの若い旦那がおりました。二人とも涙を浮かべて彼女を見送りました。
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