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下界に着くと、夏の風が心地よく吹いていました。
巳之吉が住む街の近くまで近づくと、おどろいたことに彼が近づいてきました。
「見かけない顔だね。君はどこから来たんだい?」
少し戸惑いましたが、ゆきは彼に告げました。
「私はこの山の奥にある村から来ました。実は両親を亡くしてしまって、親戚を頼って江戸まで行くところなのです」
「そうか……、それは大変な思いをしたんだね。うちは母親と二人暮らしなんだけど、良かったらうちに来ないか?」
ゆきのあまりの美しさに、巳之吉はすっかり心を奪われてしまったようです。
「ええっ!? よろしいのですか?」
願ってもない展開に雪は驚きました。
「ああ、去年父に先立たれてしまって、お袋と二人で暮らしているんだけど、さみしいものでね」
一瞬、ゆきの顔が曇りました。しかしそのことを悟られてはならないので、
「ありがとうございます。しばらくごやっかいになりますね」
笑顔で返事を返し、二人は巳之吉の家ヘと向かいました。
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