国語準備室

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 黒崎修、Colors、詳細な作品の内容。そこまで聞かされたら、もうごまかせないだろう。  俺は腹をくくった。 「染川のゲームへの愛は伝わった。染川の言う通り、俺は学生時代に黒崎を演じた。でも、俺がキャラクターに声を当てたのはこれが最初で最後だ。恥ずかしいから、このことは誰にも言わないでほしい。頼む」  手で拝む形を作り、そのまま頭を下げた。 「わかりました。二人だけの秘密ですね」  体を起こして元の姿勢に戻ると、染川が会釈した。 「今日はありがとうございました。スッキリしました」  俺が何も答えないうちに、染川は百八十度向きを変え、歩き出す。  扉に右手をかけた染川が、音もなく振り返った。 「私、黒崎修が好きだったんです。初恋でした。今でも好きです。キャラクターも声も、中の人も。先生に出会う、ずっと前から。 黒崎に恋したあの日から、あの声がアニメやゲームで聴けないかと、ずっと探し求めてきました。だから最後だなんて言わないでください。 ……これも『二人だけの秘密』ですよ?」  染川が、唇の前に左手の人差し指を立てて微笑む。  意味を理解した時にはもう、染川は準備室からいなくなっていた。
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