国語準備室

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「秀介、絶対に声優向いてるって。俺の作ったゲームに出てくれないか? 秀介のために、ちょーカッコいいキャラを書いてやるからさ!」  色摩のにかっと笑った顔と、いつでも元気いっぱいの声を思い出す。 「声優? 絶対ダメだ」 「とりあえず就職してから考えたら? 世の中甘くないわよ」  ゲームの完成品が入ったCD‐ROMを郵送し、電話した時の父と母の声が蘇る。  二人とも教師で、幼い頃から俺も教職につくことを両親は期待していたし、俺自身もそう思っていた。  声優なんて夢のまた夢。叶うはずのない夢を掲げられるのは子供の特権。  両親は教師らしく俺にそう言った。俺も納得した。元々本気じゃなくて、ちょっと言ってみただけだった。だから声優になるのは諦めた。そのはずだった、のに。  黒崎修。俺が唯一声を吹き込んだあいつが、誰かの中で生き続けていることを知ってしまった。染川に愛されていることを知ってしまった。  俺の知らないところで黒崎が生きていた。とても不思議な感覚だった。  俺はやっぱり、声の仕事に未練があるんだ。  ――そんなのとっくに気付いていたことじゃないか。CDを使わず、わざわざ自分で音読をしているのがいい例だ。未練たらたらの証拠だろう?  心の奥底で、もう一人の自分が囁く。  部活をしている生徒の掛け声、ラッパの音、廊下を走る靴音、楽しげに談笑する声。  この部屋の外から聞こえる音は全て「青春の音」だ。  対する俺は、子供にも大人にもなりきれない。宙ぶらりんだ。  大人になるには夢を諦めなければいけないのか? それなら、大人になんてなりたくない。俺はいつまでも子供でいい。
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