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「せんせー」
女子の間延びした声。右の奥からだ。
目をやると、胸元の髪の毛を左手で弄びながら、右手の爪を見つめる女子がいる。窓際の列の最後尾。
「彼女いるんですかあ?」
その子が興味なさげに言った。
座席表を見る。
渡辺夢乃。
こいつを中心にこのクラスは回っていくのだろうと考える。
「答えられないってことはいないの? もしかして付き合ったことすらない?」
きゃはっと渡辺が笑う。教室に笑いの渦が巻き起こる。染川だけが無表情のままだった。
「人にそんなことを言っちゃだめだ。そろそろ時間だし、早く廊下に並べ。入学式から遅刻したいか?」
大声で言いながら、これでは認めたことになってしまうと思ったが、時すでに遅し。生徒たちはわいわいと立ち上がり、俺の話を聞いてくれる雰囲気ではない。心の中で反論する。
俺だって彼女がいた時期はある。今はいないけど。
……誰に言い訳しているのだろうか。
親父、初日から失敗したぞ。どうしてくれるんだ。
最悪なデビューだ。笑えてきた。
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