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「さっさと廊下に出る! 荷物はそのまま、何も持たなくていいから」
もう行く? 何か持ってくの? と言いながら、もたもたと動かない生徒に声をかけ、俺は廊下に出た。追いかけるように染川も出てくる。
「早いな。ありがとう」
俺が言うと染川は目を逸らしたが、すぐに視線を戻して俺を見た。
なんだ? 胸騒ぎがする。
俺は生唾を飲み込む。
「先生ってくろさき……」
「何順で並べばいいですかあ?」
か細い染川の声が、教室から顔を出した渡辺の声で遮られる。染川はハッとした顔つきで俺から離れた。その姿から目が離せない。
「せんせー?」
渡辺が俺の顔を覗き込むようにして言う。
「あ、ああ。出席番号順に並んでくれ」
上の空の俺を見透かしたのだろう。渡辺はにやっと笑った。
「さっきの質問、そんなにショックだった?」
「違う。早く並べ。渡辺は一番後ろ」
手で追い払う仕草をしながら、俺の心はここにあらずだった。
くろさき……その後に何が続くはずだったのか。
あの名前を知っているとしたら、染川、お前は一体何者なんだ?
俺は生徒に背を向け、こっそりため息をついた。
高校教師一年目。不穏な始まり。
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