茜色の青春

職員室

「どうでしたか？　担任デビューは」

　入学式とLHR(ロングホームルーム)を終えて職員室に戻ると、学年主任の田中晃一(たなかこういち)先生に話しかけられた。
　田中先生は俺の右隣の席。大学卒業後、二十年間教師として勤めているベテランだ。

「いやー、緊張しました」

　俺は椅子に座りながら答えた。

「アレは聞かれました？」

　にこやかにスティックコーヒーを差し出してくるので、ありがたく受け取る。

「アレ、ですか？」

「彼女いるんですかー」

　田中先生は口を尖らせ、裏声を出してみせた。

「ああ、聞かれました」

　俺が答えると、田中先生は「やっぱり！」と嬉しそうだ。

「先生若いからね。私も昔は、クラス替えの度(たび)に聞かれたものです。最近は聞かれないなぁ。年かな？」
「いやいや、ご結婚されてるじゃないですか」

　田中先生の左手の薬指を確認する。

「そうなんだけどねぇ」

　田中先生は持っていた資料を、既にできあがっている書類の山に積み重ねながら寂しげに言った。