一皿目「疲労回復」

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

一皿目「疲労回復」

「はぁ〜、疲れた…」 OLになったばかりの私、水田杏沙(すいたあずさ)は当然ながら、まだ色々と覚えたてで 仕事でちょっとしたミスをしてしまう。 今日もミスで、いつもより上司に叱られ ものすごく落ち込んでいる。先程仕事が終わり解放された私は、とてもお腹がすいており 食事処を探している真っ最中だった。 いつもと違う道を探してみようとあまり行ったことのない方向に進む。残念なことにあまりお店はなく来た道を戻ろうとした時 ふと、鼻をくすぐる様な美味しそうな匂いが漂ってきた。 それは路地裏からの匂いで、お腹のすいた私を誘うように、引き寄せるようなそんな感じだ。 でも、こんなくらい路地裏にお店などあるのだろうか、お腹のすきすぎた私の嗅覚がおかしくなったのかと思いながらも信じながら路地裏に入ると奥にランプの明かりが見えた。そこには店はちゃんとあり、「親父の作る料理は毎日違う美味しい料理」と書かれた紙が貼ってあった。毎日違うと言うのは日替わり定食のことだろうかなどと考えていると、急にベルがなりお店の扉が開いた。 「おう、お嬢ちゃん。親父の料理食べてくかい?」 「は、はい!」 そう言われた次には、私はもう返事をしていた。 自分のことを親父と名乗る店主はさぁ、と言いながら私を中に入れ早速料理を作り始めた。 店内はテーブルとカウンター席があり、私はカウンター席に座り、料理を待つ。しばらくして、店主が料理を差し出してきた。 「お嬢ちゃん。疲れてそうだから、今日はパプリカと鶏肉のオリーブオイル炒めだ。パプリカは疲労回復にいいんだよ。さぁ、召し上がれ。」 と言われ、私はいただきますといい一口、口に運ぶと、特別な料理という訳でもないのに、とても心の芯から安心する味が口の中に広がった。こんな料理は久しぶりだ。私は思わず 「どうしたら、こんなに美味しくなるんですか?やっぱり秘密の作り方とか?」 「そんなものは無いよ。ただ、その人が今どんな気持ちで、どんなものがいいだろうと考えながら作るだけさ。」 と店主は答えた。 でも、この味はこの店主にしか出せない気がするほど優しさが滲み出ている。 私は次々と口に運び美味しさのあまりあっという間に完食してしまった。 「ごちそうさまでした。お勘定はいくらですか?」 「今日は500円にしとこう。美味しそうに食べてくれたからね。」 「えっ!そんなに安くていいんですか!?」 「いいさ。大切なのは値段だけじゃないからね。また、おいで。親父の料理作ってあげるから。」 「はい、ぜひ!」 別れを告げて店を出て、私はとても楽しげに 帰路についた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!