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「そういえば準優秀賞の小林君は何を演奏したの?」
無言の錦に男は話題を変える。
「メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲ホ短調。凄く良かった。あの時俺は恍惚感を味わった」
「……恍惚?」
「そうだ」
「錦君が……」
「そうだが?」
「恍惚を」
「俺だって恍惚感位味わう」
男は錦の顔を見て一つ頷く。
何かを決意したような、やたら凛々しい表情だった。
「バイオリンは無理だけど、ピアノで良ければ弾こう」
「は?」
「僕を差し置いて錦君に恍惚感を味わわせるなんて。そりゃぁ弾かないと。そうだ、連弾しようよ、それなら錦君の演奏も聞けるし一石二鳥だね」
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