⑬ 僕にも思い出を頂戴

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「そういえば準優秀賞の小林君は何を演奏したの?」 無言の錦に男は話題を変える。 「メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲ホ短調。凄く良かった。あの時俺は恍惚感を味わった」 「……恍惚?」 「そうだ」 「錦君が……」 「そうだが?」 「恍惚を」 「俺だって恍惚感位味わう」 男は錦の顔を見て一つ頷く。 何かを決意したような、やたら凛々しい表情だった。 「バイオリンは無理だけど、ピアノで良ければ弾こう」 「は?」 「僕を差し置いて錦君に恍惚感を味わわせるなんて。そりゃぁ弾かないと。そうだ、連弾しようよ、それなら錦君の演奏も聞けるし一石二鳥だね」
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