⑬ 僕にも思い出を頂戴

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今、何て……。 僅か数秒だが、思考停止した。 「今なんて?」 「そうだ、連弾しようよ? それなら弾いてくれるだろ?」 違うそれより前だ。 聞き間違いではない筈だ。 バイオリンは弾けないが、ピアノなら弾けると確かに言っていた。 「連弾とは一台のピアノを二人で演奏する事」 「うんそうだね」 「つまりはピアノが弾けるのか?」 間抜けな返事だ。 「うん。高校生の頃発表会でピアノ弾いたよ。え? なにその顔。物凄く可愛いけど目が零れ落ちそうだよ君。唇ポカーンとしちゃって可愛い!」 「初耳なんだが!!?」 「初めて言ったからね」 何を演奏したんだと男の腕にしがみ付いて問えば、彼は笑いながら「一日目はビゼーのファランドール。二日目はイベールのおてんば娘」と答えた。
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