⑬ 僕にも思い出を頂戴

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「それでも良い」 完成度の高さも技術も求めてはいない。 聴きたいのは男が弾くピアノ演奏だ。 「僕は君のピアノが聴きたいんだけど」 「お前の演奏を聴かせて欲しい」 「連弾したいな」 「……分かった」 「僕は楽譜見ながら、適当に遊んでいただけだから。指もばらばらでテンポも不正確だよ。おまけに暫く弾いていない。君の足を引っ張るかも」 男が意味ありげに見つめてくる。 只では弾かないと言うことか。 彼の表情が交換条件を迫っている。 「練習していないなら俺も同じだ。――…大したものは弾けないぞ」 「そうこなくっちゃ」 男が嬉しそうに笑った。
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