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正解だ。
男はそれ以上何も言わなかった。
「何弾こうかな」
そう言いながら男が鍵盤に指を置き錦を待つ。
つられるように、手を乗せると男がゆっくりと鍵盤を押した。
男が好きな曲。
パッヘルベルの「カノン」だ。
同じメロディーを二小節ずらし輪唱する。
男の後を追い錦も鍵盤に指をすべらせる。
曲自体は難しい物ではない。
実にシンプルだ。
シンプルで有りながらも、薄いベールを重ねて豪奢なドレスを作るように、繰り返される伴奏が積み重なり、聴くものすべてを魅了する一つの旋律が出来上がる。
追走し重なり、重なったところから解けてまた追走をする。
その繰り返しが緩やかに流れていく。
触れそうで触れない指が鍵盤で踊る。
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