運命じゃない君が運命だった

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【後編】 目が覚めると見たことのない天井とふわふわのベッドに知らない男に抱きしめられていてパニックになる。 「だ、だれ?」 凛のを抱きしめながらすっーすっーと安心したように眠る男は目を閉じていても分かるほどの美形だった。 まつ毛は長いし鼻は高いし、顔も小さい。 それにすっごくいい匂いがする。 その胸に擦り寄り匂いを堪能したいのを我慢してその腕から出ようともがく。 いくらなんでも知らない人の腕でもう一度眠る気にもなれない。 思ってたより腕の力が強くてでも男を起こすわけにもいかなくて格闘していると頭上から笑い声が聞こえた。 「ふふっ、起きたの?おはよう」 目を開いた男は思っていた以上であまりの美貌に絶句する。 自分も相当整っている方だと思っていたけど勝負にならない。 「あ、おはようございます……」 思わず挨拶を返してしまっていたけどそんな場合じゃない。 僕の記憶が正しければ、思い出したくもないけど運命の番に振られて大学のど真ん中で発情した。 色んなαにめちゃくちゃにされるんだろうと思っていたのにどうなればこんな美形に抱きしめられながら目覚めることになるのだろう。 そんな凛の心情が分かっているのか分かっていないのか、男は凛の顔をジッと見るだけで何も言ってくれない。 「あの….貴方は誰ですか?」 抱きしめられている腕を何とか外そうと頑張っているのにびくともしないので諦める。 「君の番だよ」 「えっ!、いや僕の番?僕は振られて….、」 こんな美形と番になった記憶、、はない? いや、うん? あれ? ぼやっと何かが浮かんでくるのにそれがハッキリとは思い出せない。 「あんなに愛しあったのに忘れちゃったの?酷いなぁ」 愛しあった、という言葉にぼやっとしていたそれが微かに思い出されていって顔にどんどん熱が集まってくる。 恥ずかしい! 発情期を誰かと過ごしたのは初めてであんなに乱れた自分を見られたという事実が恥ずかしかった。 「す、すみません!!!で、でも番って?」 男はニコリと笑うとベッドから降りて秋斗を抱き上げる。 「ちょ、!おろしてっ!」 バタバタするのに全然離してくれなくて洗面所まで抱っこされたまま連れてこられて下された。 そこに後ろ向きに立たされると手鏡を渡され、頸を指で撫でられる。 「ほら。見て。俺のって証拠」 鏡に写ってある自分の頸を写せるよう手鏡で見るとそこには覚えのない歯形がくっきりある。 「これ……」 「初日で一番発情期がきつい日だったから覚えてないのかな?凛も噛んでいいって言ったんだよ?」 全然思い出せない。 この人に沢山抱かれているのは何となく思い出せるのに噛まれた時のことは全くだった。 こういう場合どうしたらいいのだろうか。 外で発情期になったΩをαが噛んでしまう事件は結構ある。 慰謝料とか払えって言われたらどうしよう。 そんなお金あるわけない。 「どうしたら…」 「ん?もう凛は俺のものだよ。どうするもなにもそれは変わんないよ」 「でも、貴方のこと、しらなっ」 「秋斗。あきとだよ。言えるよね?」 今まで微笑んでいた優しい雰囲気が一転して張り付くような緊張感。 笑っているのに笑っていないってこういうことを言うんだろう。 「あきと、さん」 「秋斗」 「あきと、」 「うん。どうしたの?」 さっきの怖かった雰囲気はもうないのに何かが怖くてここで間違ったことを言っちゃいけないと何故だな分かる。 どうしよう、と目をキョロキョロさせる。 「寒いでしょう?ベッドに戻ろう」 言葉を探しているうちにもう一度抱き上げられて連れて行かれた。 「凛はさ、俺のこと嫌い?」 あったばかりなのに嫌いも好きもない。 「よく知らないので分かりません…」 「そっか。俺は凛のことずっと前から好きだよ。だからさ、一緒に過ごしてみない?俺のことを知るために。ね?」 知らない人と過ごすのはおかしいんじゃないか、とかずっと前ってどういうことなんだ、とかまずここはどこなんだ、とか。 聞きたいことは沢山あるのに誰かに操られるようにその言葉に頷いていた。 「うん。いい子だね」 だって、頭を撫でられるだけでこんなに気持ちいいんだ。それに、この匂い。すっごい安心する。 なにより皆んなに捨てられた僕を好きだって言ってくれた。 「運命の番に会っても僕を捨てない?」 本当に出会った時には捨てられるって分かっているのに僕がいつも通りの質問をすると秋斗は笑った。 「ふふっ、俺の運命は凛だよ。凛こそ俺を捨てちゃダメだよ」 運命の番には振られたから秋斗が運命の番いのはずがないのに何故かスッとその言葉は心の中入ってきてああ、僕の運命は秋斗だったんだって思ったんだ。 だったら秋斗は僕を捨てないよね。 運命の番なんだから。
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