悪魔に魂を売った日

1/3
前へ
/13ページ
次へ

悪魔に魂を売った日

サラサラの髪の毛に十五歳として相応の身長に健康的な体型の双子の弟である圭介(けいすけ)とは違い目元まで隠れた髪は癖が酷くクルクルで小学生と間違われるほど小さい身長にガリガリの身体の悠介。 小さい頃はそっくりだと言われたその顔も今や別人になってしまった。 よく笑う圭介とは違い愛想笑いも出来ない祐介は小さい頃から子供らしくなく大人びた発言をすることが多かった為、大人たちから疎ましがられた。 「圭介と違って悠介は可愛くないわねぇ」これが母の口癖であり大人たちの共通認識だった。 幼稚園の頃は圭介と同じ服にご飯を与えられていたように思う。 それが歳を重ねるごとに服は圭介のお下がりを着せられるようになりご飯は碌なものを与えられなくなった。 父は大企業の役員だった為どちらかと言えば金持ちの部類に入ったにも関わらず、悠介にお金をかけることをものすごく嫌がった。 それでも小学生の頃は良かった。 給食があった為、一日一食はちゃんとしたものを食べられた。 中学生になりお弁当になってからは悠介の分は勿論なかったので母の財布からバレないように小銭を盗み八枚切りのパンを一日に一枚だけ食べるようにして空腹を紛らわせた。 それでもどうしても我慢出来ない時は夜中に冷蔵庫のものを漁って食べた。 それが母にバレるとハンガーで殴られる為バレないものを少量だけ。 圭介と悠介の身体の差がこれだけあればおかしいことに周りも勿論気がつく。 それでも頭の回転が速く無愛想な悠介は教師たちからも面倒な存在であり、何とかしようと動いてくれる教師はいなかった。 けれど悠介はそれで良かった。 教師が相談に乗ってくれたとして家族の対応がいい方向に向かうとは思えなかったし児童相談所だってたいして役に立たない事を知っている。 それにこの十一年を超える苦痛を両親に味わいさせたかった。 お腹いっぱい食べられない苦しみ。 暖房もつけられず毛布もない部屋で冬を越す辛さ。 周りの嘲笑うような馬鹿にしたような視線の中で毎日を過ごす苦痛。 気にそぐわない事をすれば痛みを与えられる恐怖。 悠介だって圭介のように愛して欲しかった。 顔に出ないだけで母も父も大好きだったし双子の弟は可愛かった。 何故自分だけ。死んでしまおうか。 何度心の中でこの問いかけをしたかわからない。 それでも悠介がしぶとく生き続けたのは両親に後悔させたかった。 悠介を可愛がれば良かった。 あんな事するんじゃなかったって。 その為になら悪魔にだって魂を売る。 そんな悠介の願いが届いたのかある日家に帰ると両親は血だらけになりながら土下座していた。 その横には顔を真っ青にして震えながら立っている圭介。 自分に対してではないと分かっていても上がる口角は抑えられない。 そんな無様な両親を目に焼き付けようと見ていると玄関が開く音がしてそちらに目を移すとこの世の人間とは思えないほど美しい男がいて呆気にとられた。 圭介だって隣の中学校にもファンクラブがあるほどイケメンだが比べるのも失礼だと思うえるほどの顔立ちだった。 容姿も晒し出すオーラも普通じゃない。 多分ヤクザだ。 この男の気に少しでも触れてしまえば殺されると本能が感じ取った。 「やっと帰ってきたなぁ、悠介くん」 自分の名前を知っていることに対して驚きはしなかった。 そんなことより美しい男の隣にいる太った男の声が思った以上に高くてそっちの方が気になった。 そんな悠介の様子を見てつまらなさそうにしていた美しい男の眉がピクリと上がる。 「余裕そうだけどこの状況が分からないほど馬鹿なのか、それとも顔に出ないだけなのか」 美しい男は声まで美しいらしい。 天は二物を与えずなんてよく言うけど多分この男は五物くらいは与えられている。 美しい男だけがソファーに座り太った男は横に立っている。 「お前たち双子はこれから金持ちのおっさん達に犯され続けるんだ。死ぬまでな」 「嫌だ!どうして俺がそんなことやらないといけないんだ!!!」 太った男が楽しそうに言う言葉に嫌だ嫌だと泣き喚く双子の弟に笑ってしまいそうになる。 圭介は思った以上に馬鹿だったらしい。 この状況でそんなことを言ったところでじゃあやらなくていいよ、なんてなるはずがないのに。 「うるせぇ。拒否権なんてある訳ねぇだろ。恨むなら二千万も借金した親父を恨むんだな」 恨む?むしろこればっかりは感謝したいね。 父親がヤクザに二千万も借金するような馬鹿で本当に良かった。 こんな両親の姿を見るのに後十年はかかると思っていた。 ラッキーすぎる。 けど足りないなぁ。 ちょっと殴られて土下座するくらいじゃ全然足りない。 「いい事思いついた。誰かがこいつの性器を舐めてイかせることが出来たら二千万チャラにしてあげるよ」 「冬夜さん!本気ですか?」 太った男は驚いたように冬夜と呼ばれた美しい男を見る。 「楽しそうでしょ?安藤、イッちゃ駄目だよ?」 楽しそう、なんて言うくせにその顔はニコリともしない。 冬夜の提案は地獄に垂らされた一本の糸のようで両親の目に希望が映ったのがわかった。 けれど自分たちが太った男の汚い性器を咥えることは出来ないらしくお前がやれ、と三人の視線が悠介に集まる。 唯一助かるかもしれないそれを出来ないと思うその三人の余裕さに驚く。 「誰がやるの?早くしないとなしにしちゃうけど」 「こいつがやります」 圭介が指した指の先には俺がいてその役目を俺に押し付けようと両親は必死に頷く。 「君がやるの?」 これから死ぬまで男たちに犯され続けるくらいなら今ここでこのキモいものを咥えることなんて容易いことだ。 けれどこのままチャラになるなんてあり得ない。 両親がこれくらいで許されるくらいなら死ぬまで犯されてた方がいい。 「やります」 その俺の言葉にこれで助かるのだと身体の力を抜く両親と泣き喚いていた顔から一転して余裕そうな顔をしだす圭介に思わず苦笑いする。 俺がやりますと答えたことが意外だったのか、冬夜は何かを探るようにじっと悠介を見る。 その視線に囚われたように身体が動かなくなっていたが少し離れた所にいた圭介に背中を押されたことで少しだけ足が進んだ。 未だにじっと見てくる冬夜を真っ直ぐに見返す。 「この人をイかせても借金チャラにしなくていいので一つだけお願いを聞いてもらえませんか」 「お願い?」 頷くと冬夜は少し悩むそぶりを見せた後、楽しそうに笑った。 「いいよ。何がいいの?」 「この二人を死んだ方がマシだって思うくらいの目に合わせて貰えませんか」 悠介の言葉に冬夜はより一層楽しそうに笑みを深める。 「はぁっ!ふざけるな!何言ってんだ!」 「うるせぇっ!!!」 口元にガムテープを貼られていて喋れない両親は何かを言おうとウッーと唸り、その代わりに口の開く圭介が喚く。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

110人が本棚に入れています
本棚に追加