悪魔に魂を売った日

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冬夜に連れられ家を出てから五日たった。 どうやら冬夜は東日本を取り纏めるヤクザのNo.2らしい。 あの日いた安藤が冬夜がいない時にこっそりと教えてくれた。 だから逃げようだなんて考えるな。 冬夜は飽き性だからすぐに捨てられるはずだからそれまで大人しくしてるんだ、と。 逃げようだなんて言われるまでもなく考えたことはない。 冬夜の愛人という立場は色んな人から大事にしてもらえる。 それは自分の実力じゃないにしろ使えるものは使っとく主義の自分には都合が良かった。 毎食、お腹いっぱいご飯が食べられるしあったかいお風呂に浸かれてふかふかのベッドで眠ることが出来る。 勉強だって集中出来るし、テレビを見ることも許されている。 こんなに幸せなのにどうして逃げようだなんて考えると思うのか不思議だった。 今までは。 もう何時間も自分のとは比べ物にならない赤黒いものが悠介の中を打ち付けている。 「あっ、あああ!!!」 自分の声が遠くに聞こえる。 悠介のものは勃ち上がることもせずにダラダラと透明の雫を垂らし、力が入らない身体は冬夜に揺さぶられる。 「もぉ、無理っ無理だからっ、」 力の入らない手で覆いかぶさっている冬夜を殴りつけるが容赦なく腰を動かされる。 「おねがっ、んぶっ」 やめて欲しいと声を上げる悠介に冬夜は息ができないほどのキスをする。 舌は巧みに悠介の舌を絡みとり、否定の声を奪っていく。 そうなるともう悠介にできるのは快感に泣かされ叫ぶだけだ。 冬夜もイきそうなのか腰の動きが早くなり、さらに奥まで入ってくる。 あまりの快感に足が痙攣し目の前には光がとぶ。 そんな悠介の様子が冬夜を煽るのか微かに見えたその顔には惚れ惚れするほど綺麗な笑みが浮かんでいた。 「んー、殺しちゃっていいよ」 物騒な言葉で目が覚め、慌てて起きあがろうとするが全身が重く動かない。 喉も乾いたし冬夜の電話を盗み聞きしているようで居心地が悪いので早く出ていきたいのだが好きなように使われた身体は思った以上にダメージを負っているらしい。 モゾモゾと動いている悠介に気がついたのかベッドの近くに座っていた冬夜が電話をしながら近づいてくる。 頭の向きを変えて冬夜の方を向くとシッーと手を口元に持っていくので頷いた。 ジッと隣で電話を続ける綺麗な男を見上げる。 整ったその顔と均等に整えられている身体はガリガリの悠介とは正反対だ。 どうしてこの男が自分を家に住まわせているのだろう、と考えるがすぐに暇つぶしだろうという結論に辿り着く。 見上げている悠介の頭に冬夜の手が乗りゆっくりと撫でられくすぐったい。 電話を持っていない手が手持ち無沙汰なのか悠介の髪の毛をクルクルと指にかけて遊んでいる。 さっきの物騒な言葉のように自分も飽きられた時には殺されるのだろうか。 せっかくあの家族から離れられたしまだ死にたくはないなと思うものの天使のようなこの男に殺されるのもいいかものしれないとも思う。 でも、今のように電話で下っ端に殺されるのは御免被りたい。 「何考えてるの?」 いつのまにか電話は終わっていたらしい冬夜のその顔には柔らかい笑みと冷たい瞳がある。 何を考えているのか全くわからない。 「別に、なにも」と答えたが口から出るのは掠れた声で冬夜が苦笑いする。 「ごめんごめん、やり過ぎちゃった。水持ってきてあげる」 ごめんというその顔に謝罪の色は一切ないがそれが何故だか面白く感じてしまう。 人を殺せと命じる時も変わらないこの男の余裕そうな顔が変わるのはどんな時なんだろうか。 見てみたい。 戻ってきた冬夜に身体を起こされ水を口元に持ってきてくれる。 自分で飲もうとした手は冬夜の無言の視線で戻した。 冷たい水がやけに美味しく感じて何度も喉を鳴らす悠介を冬夜は変わらず何を考えているのかわからない顔で見ている。 「で、何を考えてたの?」 しつこい。 そんなに気になることなんだろうか。 正直に言う以外許されない雰囲気にため息が出る。 「別に。殺されるならあんたの手がいいなって思っただけだよ」 数秒の沈黙の後、冬夜が声を出して笑い出したので呆気にとられた。 この男もこんな風に笑うのか。 「ククッ、なにそれ。なんで俺が悠介を殺すの?」 「何でって…」 人なんか簡単に殺しそうだからとは言えず口籠る。 冬夜は声を出して笑うのをやめたが機嫌が良さそうにしている。 「悠介は殺さないよ」 今は、だろ。と声に出す勇気は悠介にはなかった。 「そう。なら良かった」 「あー、悠介って本当に面白いね」 猫を愛でるように冬夜の手が悠介の顎を撫で首筋に沿って降ろされていく。 続きます
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