1話 うちの売り子

1/4
前へ
/15ページ
次へ

1話 うちの売り子

第三者目線 まじまじと外装を見る。 赤い提灯が薄く辺りを照らしている。 パッと見ると、他の見世よりは地味だ。 木造造りで、 出入口には紫色の暖簾がかかっている。 「中、入りませんか?」 さっきの男が覗き込みながら、声をかけた。 その目はいたずらに笑っていた。 「....入りますよ....」 身構えながら、 おずおずと暖簾を潜る。 「っ!!!」 男性のみの見世だと聞いてきたが、 なんと華やかなんだろう。 真新しい畳なのか、 い草の青臭いけれど安心する匂いがする。 それから、控えめな香水の様な匂いと 煙草の匂い。 不思議と嫌いな匂いではなかった。 中はとても広く、 わざとなのか障子のような遮るものはなく、 奥まで見えるようになっていた。 それから目に飛び込んできたのは、 きらびやかな売り子たち。 華やかな色で刺繍も細かく施された着物を羽織り、 ある者は煙草を吸い、ある者は談笑している。 思わず見とれていると、 後ろからあの男も入ってきた。 すると、 今まで見向きもしなかった売り子たちが 驚いたようにこちらを見た。 アルジ 「主!!!!!」 誰かがそう叫ぶと、 他の者もわらわらと向かってくる。 当の「主」と呼ばれた本人は 顔色ひとつ変えずに、ただただ微笑んでいた。 微笑むよりはほくそ笑んでいるようにも見えた。 彼は、されるがままに、 上等そうな羽織りを脱がされ、 お茶を出され、火の着いた煙草を咥えた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加