ヒューマンテラー

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ここはどこだろう 立とうとおもって、うまく立てない 自分の形がふわふわしていてどこが手かもわからない 私は死んだのか ここはどこ、ヴィンセントが言っていた、死後の世界? ふと目の中で何かが像を結ぶ 「っ!」 いつの間にかずっと焦がれていた金の髪 揺れるそれが少しずつ遠くなる 「ま!まって!!」 ふわふわした体を無理やり引きずるように追いかけた 「待って!ねぇ、待ってアリス!!アリス、アリスさん、お、」 金色がふっと立ち止まった 「待ってお姉ちゃん!!私も、私も一緒に、」 必死に手を伸ばす 「お願い、もう、もう独りは嫌なの!!私も皆と一緒に、」 待っていたように立ち止まっているアリスの手に手を伸ばす 「あ、」 その手は届かなかった 届かない代わりにそれは私の背中で交差されて 目の前が金色一色になった 「ごめんね」 「え?」 「さくら、あなただけでもどうか幸せになって。それがわたしの、ううん皆の願い。忘れないで」 自分が浮き上がるようなふわっとした感覚と同時に後ろから風を感じる 背中から落ちたんだ、と気付くころにはアリスは遠く、手を振っているのが辛うじて見えた 「!」 気が付くと目の前に木の板が並んでいた いや、違う 私が横になっていて、天井が木製なのか 「かあちゃぁーん!!お姉ちゃん、目ぇ覚ましたごたぁー!!」 「!!」 隣の廊下を人が通っていった 「えっ…?」 なにが起こったか理解が追い付かない 混乱しているうちに女性と小さい男性、おそらくさっき声を出した人が隣に盆を持ってきた 「うちの子が大声出してごめんねぇ。お粥持ってきたっちゃけど食べれる?」 「えっと、はい」 言われるがまま、布団からなんとか起き上がって盆を受け取る 木製のスプーンから一口、 「…あらあら、ちょっとからかったかねぇ?ごめんねぇ」 女性は手元から出した手ぬぐいで優しく目をぬぐった 「…あれれぇ、どうしたもんかねぇそがん泣かんで、ねぇ」 「ばーあちゃーん!!母ちゃんが海からきた姉ちゃん泣かしよるー!!」 「こら!フジ!」 慌てる女性に走る男の子 それでもしきりと頬をぬぐってくれる女性に申し訳なくて 自分でもなんとか止めようと思うもなんで流れるのかもわからなくて 私はただスプーンを手にしたままなす術もなく泣き続けた 「涙は心の汗やけん幾らでも流しんしゃい」 ようやく落ち着いてきたところにゆっくり歩いてきた背の低い女性はしわがれた声でそう言った その言葉にまた胸が詰まる 「お義母さん、やぁと止まりよったのに余計な事言うけんー」 「よかよか、このへんじゃみらん着物にこげんやわくてこまい別嬪さんや。此処までなんやかんやあったんやろう」 少しかたい手が頭をぽんぽん、と叩いた 手の感触で、頭に何か巻かれていることに気づく 「お嬢さんはうちんとこのせがれがなぁ、漁の途中に海のまぁんなかで見つけたっちゃん」 話しながら一定のペースで頭を移動する手に、少し気持ちが穏やかになる 「海は昔っからいろんなもんを連れてきなさる。婆ちゃんの婆ちゃんは金の髪の人にあったこともあるげな」 「えっ、金の、」 「金!?金の髪って髪の毛、金でできとると!?」 「馬鹿、そげなこつあるわけなかろうもん」 「婆ちゃんも見たことないけん分からん」 そういうと彼女はわたしの両手を両手でつかんで、私の目を見て言った 「やけんね、お嬢さん。今はちかっぱ泣いて、ちかっぱ食べて傷ば治しんしゃい。そんあと、よかったらあんたの話を聞かせてくれんか。わしは村からでたことがないけんのぉ」 少し誤魔化すようににっこり笑うお婆さん 少しかたい、暖かい温もりが手を包んで 「あっ、あの、」 涙が邪魔で喋りにくい 言いたいことが喉につっかえて お婆さんも、お母さんも、フジ君も静かに私を待ってくれている 「わ、私の、私の手紙(はなし)を、聞いてください」
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