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あれから3650日が経過した
82号で緑茶を飲みながら一息をつく
ヒューマンレターの管理人、といっても管理人としての仕事はエラーチェック程度でほとんどない
何故ならヒューマンレターは余りにも完成させすぎているからだ
もう遥か昔、地球が滅ぶと分かって初めて全人間は団結し、人類の叡智をひとつの船に押し込んだ
有機物完全循環システム、自動運航、自己防御機構、それら全てを指揮する高度人工知能、等々
結果うまれたヒューマンレターは人間の歴史よりずっと長く漂い、生き続けている
ちなみに人間はヒューマンレター発射後、遅すぎた団結について争い滅亡をさらに早めたらしい
話が逸れた
では私たちはなぜ存在するのか
それは生きた人間の見本としてに他ならない。
管理人はあくまでヒューマンレターの寿命を延ばす為の付属品なのだ
ランダムで決まる人種と性別、生産時から何年経とうと20歳の人間から変化しない体、プログラムされた食事と睡眠
まだ見ぬ知的生命体へ人間を騙るもの、ヒューマンテラー
「っ!考え事が小難しくなってしまったな…」
ひとりだとどうしても考えごとに沈んでしまう
そういう時は声を出すようにしている
「はぁ…」
両腕をぐっと伸ばす
82号は所謂ヒューマンテラーの私室になる
私室と言ってもあるのは机と椅子とベッド、それと小さな窓
ただ、机のコマンドからは船内で唯一過去のヒューマンテラーのデータが保管されている
さっと机をスライドさせデータを開く
「データオープン、アリス」
簡単な写真と基礎データ、そして彼女の日記
これが唯一ヒューマンテラーに許された娯楽だった
「アリス…」
最初に握った温もり
「アリスは満期完遂したんだ。」
ヒューマンテラーで一世紀の満期完遂は実は多くない
病気やケガなどで人工知能が管理能力に問題ありと判断すると自動で次の代が生成される
「へぇ、ビルとウィルは前のアニカが急死したから会話のチェックができずに10歳の双子で生まれたんだ…」
39兆も時間が経っていればバグも発生する
「2人で勤務は、ちょっと羨ましいなぁ」
窓を見ても何も映らない、あるのは暗闇だけ
昔は光が見えたこともあるらしいが今までの時間で辿れたヒューマンレターの記述では窓は何も映していない
この船は何を基準に飛行しているのかもう誰にも分らない
時々軌道修正をするから何かを目指しているのだろうが
「おっと、時間が過ぎてる。もう行かなきゃ」
急いでデータを閉じる
最後に見たアニカの死因“フォークで自殺”がやけに頭に残って離れなかった
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