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それから彼女とは、明くる日も夜の浜辺で語り合った。
──それぞれの現状の事。
「へぇ、高校生かぁ。いいじゃん、行きたい道に進める時期だよ」
「そ、そんな。奈々さんこそ、歌手だなんてびっくりしました。どこかで聞いたことある声だなぁとは、少し思いましたけど……。
奈々さんも、歌手になるの、昔からの夢だったんですか?」
「……それがねぇ。歌手……っていうよりアーティストって、子供の頃思っていたのと少し違ったんだよね」
──互いの悩みごと。
「伝えたいことを伝えたい人に伝えられると思ってたの。
けど実際は、与えられたことを決められた人に表現するだけ。私が伝えたい思いより、作詞家さんや他のお偉いさんの伝えたいことの方が多かったの。
私のついた事務所が特別そうなのかもしれないけどね」
「……あの、おこがましいですけど、その気持ち、少しわかる気がします。
与えられた役割とか、勝手に描かれた理想を求められるような気持ち……とか」
「優秀な家族に囲まれているなんて、そうだよね。私だったら、息が詰まって逃げ出しちゃいそう」
──互いの夢。
「だけど私は諦めたくないの。与えられたことは、それなりにはこなすつもり。
それとは別に、私が伝えてみたい。私の作った音で、私の書いた歌で、私だけのステージで。
……だからああやって浜辺で練習していたの。作曲なんて、したことないからね」
「奈々さんは、本当にすごい人です。あの日もまるで、夜の浜辺をステージのように輝かせていた。偶然通りかかった私を、一人の観客にしてみせた。
それだけ凄いのに、それでもまだ、もっと先に進もうとしている」
──私の欲望。
「わ、私は……あなたみたいな人に、なりたい。
だっ、だから、その喉をください」
「…………えっ?」
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