ろくでなし

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私は、何だったのか。 私の声はもう無い。私の言葉はもう無い。 私の伝えたいことも、私の気持ちも──私の心は、ここ(・・)にもなかった。 真っ赤な椿の花が、カーペットのように咲いている。鉄の臭いと、湿った指先。 その刺激で、ほんの一瞬して私を取り戻した。 私はいままで何をしてきたのか。 私は、私に無いものを他人から奪ってきた。そうして掴んだはずの栄光さえわからなくなっていた。 取り戻した私が、尽きていくのがわかる。 私の口からこぼれた言葉は、ひとつだけだった。 「……むな、しい……」
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