1人が本棚に入れています
本棚に追加
私は、何だったのか。
私の声はもう無い。私の言葉はもう無い。
私の伝えたいことも、私の気持ちも──私の心は、ここにもなかった。
真っ赤な椿の花が、カーペットのように咲いている。鉄の臭いと、湿った指先。
その刺激で、ほんの一瞬して私を取り戻した。
私はいままで何をしてきたのか。
私は、私に無いものを他人から奪ってきた。そうして掴んだはずの栄光さえわからなくなっていた。
取り戻した私が、尽きていくのがわかる。
私の口からこぼれた言葉は、ひとつだけだった。
「……むな、しい……」
最初のコメントを投稿しよう!