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第9話
「よっ! 坊主、無事に審査が通って何よりだ!」
「わぁっ、と。あぁ! 先程は有難うございました!」
「いいってことよ!」
門を潜ってすぐ、陽気で大きな声と共に、背後からくしゃりと頭を撫でられた。驚きでややさげ気味になった頭を声のした方へと向ければ、そこには、先程の門番の男がそこにいた。
「坊主は男の割に可愛い顔してっから、人攫いに気を付けろよ?」
(人攫い……って)
「ここって治安悪いんですか?」
「治安が悪いっつーか、国がでかい分、警備が回らねぇこともあるからよ」
「わかりました。ご心配頂き、有難う御座います! ところで、教会ってどこにありますか? 折角、大きな国に来たのでお祈りしたいと思いまして」
***
参考にするものといえば、ラノベのみ。異世界に来て最初の段階で主人公がよくしているのは、神への祈りだ。それによって神から助言をもらって行動する、といった内容をよく読んだ。ということで、教会に行くことにしたのだ。
教会は門を潜ってすぐにあったが、そこは簡易的な教会で有難みがないと、王都の教会を勧められた。なので、そこに行くことにした。
「………⁉︎」
地に足をつけたままズリッと一歩後退ると同時に、思わず飲む。言葉が見つからない。言葉を失う、そんな表現が正しいのかもしれない。
上半身裸、下半身は大事なところが見えないように布切れが巻かれており、靴は履いておらず裸足だった。剥き出しになった身体には、鞭のような線の跡や暴行を受けていたからか黒紫色の痣が目立ち、マダラ模様になっている。とても痛々しい。見ていられない。
不規則に動く心臓に、一度深く深呼吸すれば、規則的な律動を取り戻し、落ち着いた。
上半身裸の人々に、そこそこ身なりのいい平民風や貴族風の者たちは特に気に留めることもなく、通り過ぎてゆく。その光景が当たり前であるかのように。
繋がれた鎖をジャラジャラと音を立てながら、私の直ぐ横を通り過ぎる上半身裸の一人の男に恐る恐るチラリと視線を向ければ、その人の瞳は虚ろで、光を映してはいなかった。絶望いや、絶望を通り越して空虚に等しい表情だった。
こんな開けた場所で、そんな。
この国には、奴隷制度が?
奴隷の中には小さな子供までいた。そして、奴隷のほとんどは男ばかりで女は今のところ見当たらない。女は子を孕めるから、奴隷商館にいるのかと思ったが、そういうわけではなさそうだ。奴隷を除いても、女性が明らかに少なかった。しかも、どの女性も一人の女性に対し守るかのように男が数人共に歩いている。
まさか、女性自体が少ない?
女性が少ないのであれば、貴重な存在となり得るし、身寄りのない女だとバレてしまえば、誘拐もある?
私の判断は正しかったのかもしれない。男の振りをしたことで、最悪の危機を回避できているのかもしれないのだから。
"人攫いに気を付けろよ?"
門番の男の言葉が何度も何度も頭に響き、私はローブを深く被った。
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