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第12話
「不可侵条約を忘れたか、第三世界創造神シューゼよ。神は世界を越えて個人に干渉してはならぬ」
「承知している。だが、私が言っているのは観覧の許可のみだよ」
「……ふん。ならば良い」
ただ個人の記録を見るだけで罰則が下るようなことはなく、また、元より禁止されている行為ではない。天照はあまりいい顔をしなかったが、渋々といった様子で『日本生物生命記録書』を手渡してきた。それを開いて彼女の立体記録映像を見た。この立体記録映像は、個人のこれまでの人生を空間に映像として映し出すものだ。
彼女の名前は、柊木隼人。
立体記録映像を見て、家庭内暴力と学校でのいじめに耐え続けた日々、それから児童相談所に保護された後に親戚である独身の男に引き取られ転校したこと、男は不器用で彼女に十分な愛情を注げなかったということが分かった。
隼人は今世での幸せを諦め、来世でより良い人生を歩めることを願い、命を省みず身体を張って人や動物を助けていた。
甘えることを知らぬ彼女は、義父を試すような行動もしていた。些細なことでわざと激怒し、家出をして一ヶ月も家に戻らなかったようだ。帰宅したとき、義父は何も言わず責めず泥だらけになった身体を抱きしめた。その義父の行動に彼女は顔を綻ばせた。
彼女は、誰かに必要とされている。
彼女は、誰かに心配されている。
そう実感したかったのだろう。
彼女の心は、彼女の知らぬ間に壊れていたのかもしれない。
「干渉してくれるなよ、シューゼ」
「あぁ、今のところは……ね」
「何ぃ⁉︎」
天照はこめかみに青筋を立てて、目を見開く。
「魂譲渡による他世界への転生許可をくれ」
人が死に、魂だけになり、転生し、また新たな人生を歩む。
しかし、積み重ねた罪、積んだ徳によって転生するまでにかかる時間はそれぞれ異なる。
故に、戦争の盛んな世界では新たに転生するまでに時間がかかり、その世界の人口は一定期間減少し続ける。そうなれば、人類滅亡の危機に瀕してしまう。
であるから、世界の人口をなるべく一定にするべく、世界を越えて魂の譲渡が年に一度一斉に行われる。魂の選別はランダムで一つ一つ見て譲渡するわけではない。時期が異なり、個別譲渡する場合は、許可をもらわなくてはならない。
「……」
先程とは異なり、今度は目を細め私に対して天照は疑いの目を向けてきた。きっと、よからぬ方向に考えているのだろう。私が彼女を殺す、とか。
「勘違いしないで頂きたい。近いうちに彼女は死ぬ。望み通り、人助けでね」
「ぬぅ? 何故わかる。彼女の寿命はもっと先ではなかったか?」
動物は生まれた時から寿命が決まっている。正確には、魂の器となる身体本体の寿命がだ。そこに病気や事故によるものは一切として含まれない。
「私には父である予知神の血が入っている。父ほどの力は発揮できないから、髪を代償としたけどね」
神の髪は、人間と比べて伸びる速度はかなり遅い。その分、神力が髪に溜まりやすくなる。髪に溜まった神力を身体へと戻すことは不可能で、その神力を使うためには切らなければならない。
「はぁ、死んだあとなら好きにするがいい。幸い第一世界は人口が多い。しかも、日本は私の管轄だからな。余計な書類が増えることもない」
天照はやれやれといった様子で、額に手を乗せ首を横に振った。
「ありがとう。助かるよ」
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