第0話

1/1
前へ
/77ページ
次へ

第0話

 お腹が空いた。汗が気持ち悪い。服が欲しい。暑い。お風呂に入りたい。暗い。喉が渇いた。  お腹が空いた。汗が気持ち悪い。服が欲しい。寒い。お風呂に入りたい。暗い。喉が渇いた。  誕生日ケーキが食べたい、弟の時みたいな。名前が欲しい、女の子みたいな。名前呼んでよ、私の名前を──。  一度でいいから抱きしめて。弟の時のように、義父の時のように、嘘でもいいから"大好きよ"と言って、私にも。  生きてるってことは、生かされてるってことは"愛されてるから"だと思っていいよね? 『何言ってんの? アンタ殺したら、誰がその死体を片付けんのさ。処理が面倒だからに決まってんでしょ』  じゃあ私、いらない子? 何で生んだの? 何で生まれてきたの?  何で──────  身体の小さな女の子が蹲って泣いている。骨は浮き出て、薄く白い皮を突き抜けそうだ。 (かわいそうに……)  私はその子をただ見ているだけしかできない。手を伸ばして、その子の頭を撫でてあげようとしたのに、透明で目には見えないガラスのような壁に阻まれて、近づくことができない。  その女の子の声らしきものが、ずっと直に耳に届いてくる。  彼女を中心に季節が移り変わってゆく。なのに、彼女の思っていることや考えていることはまったく同じ内容で、まるで、壊れたラジオテープを聴いているようだと思った。  モノクロの映像はそこで終わりを告げた。    これは────そうか、私の記憶だ。
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!

233人が本棚に入れています
本棚に追加