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第0話
お腹が空いた。汗が気持ち悪い。服が欲しい。暑い。お風呂に入りたい。暗い。喉が渇いた。
お腹が空いた。汗が気持ち悪い。服が欲しい。寒い。お風呂に入りたい。暗い。喉が渇いた。
誕生日ケーキが食べたい、弟の時みたいな。名前が欲しい、女の子みたいな。名前呼んでよ、私の名前を──。
一度でいいから抱きしめて。弟の時のように、義父の時のように、嘘でもいいから"大好きよ"と言って、私にも。
生きてるってことは、生かされてるってことは"愛されてるから"だと思っていいよね?
『何言ってんの? アンタ殺したら、誰がその死体を片付けんのさ。処理が面倒だからに決まってんでしょ』
じゃあ私、いらない子? 何で生んだの? 何で生まれてきたの?
何で──────
身体の小さな女の子が蹲って泣いている。骨は浮き出て、薄く白い皮を突き抜けそうだ。
(かわいそうに……)
私はその子をただ見ているだけしかできない。手を伸ばして、その子の頭を撫でてあげようとしたのに、透明で目には見えないガラスのような壁に阻まれて、近づくことができない。
その女の子の声らしきものが、ずっと直に耳に届いてくる。
彼女を中心に季節が移り変わってゆく。なのに、彼女の思っていることや考えていることはまったく同じ内容で、まるで、壊れたラジオテープを聴いているようだと思った。
モノクロの映像はそこで終わりを告げた。
これは────そうか、私の記憶だ。
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