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第2話
魔力及びスキル無しで身を守る術がないというのに、隼人の危機感は、とても薄かった。いきなり異世界に来てしまったのだから実感がないというのもあるのだろう。
しかし、危機感の薄さは今にはじまったことではなかった。
小学五年生の頃、隼人は義父と喧嘩をして家出した。家出は一ヶ月にも及び、警察による捜索も始まっていたが一向に見つからなかった。一時は誘拐されたのではないかと騒ぎになったものの、それから程なくして、土塗れで身体を真っ黒にして隼人は帰宅したわけだが、早々に言った一言といえば、
『野生料理に飽きた』
だった。
一ヶ月もの間、隼人は自宅から一キロメートル先にある山で生活していた。川で魚を獲り、小枝を集めて焼魚にしたり、猪をサバイバルナイフで仕留めて捌いて焼いて食べるという実に逞しい生活を送っていた。身ひとつで家出をしたわけではなかったため、食べて寝るだけでの生活だけであれば、なんら困ることはなかった。
家は始めキャンプのテントを張っていたが、途中で丁度良いサイズの洞穴を見つけたので、そこに引っ越したのだ。
そこそこ快適な生活ではあったが、食生活に限界がきていた。肉と魚だけの生活。野菜代わりになる山菜は普通の雑草と見分けがつかず、容易に手を出せない。調味料は持ってきていなかったため、ワンパターンの味が続く。
そして、隼人は腹を括って決断した。
「帰ろ」
決断してから行動に至るまで速かった。意地よりも食をとったのである。隼人は走って自宅へ帰って来たのだった。
因みに喧嘩の原因は、『楽しみにしていた高級アイスを食べられたこと』である。
山には毒蛇といった危険のある動物が潜み、毒キノコがあることも隼人は知っていた筈であるのに、行動を起こすことに一切の迷いはなかった。
他にも色々やらかしており、住宅街に出没した熊が通学路を歩く小学生に目をつけ追いかけまわしていたところ、リコーダーで熊の背後に忍び寄り頭蓋骨を殴って退治したこともあったし、大雨で川の水位が上がって川の真ん中の岩にぽつんと取り残された子猫を濁流にのまれながらも助けたこともあった。
脳筋、無鉄砲、考えなし、野生児、そんなあだ名が同級生からつけられてしまうほど、隼人の成した数々の偉業は地元では有名な話であったのだった。
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