第3話

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第3話

「さて、どうしよっかなぁ……」  立っているのも疲れるので、ドカッと胡座(あぐら)をかいて頬杖をつき思案する。  未だに魔物と遭遇していない。元々、この森が安全なところなのか、それとも森の奥深いところではないからなのか。  さっき見たのはドラゴン? いや、そこまで大きくないからワイバーンだったのかな。そういうのがいるってことは、魔物もいるんだろうな、と考えたところでハッとする。 「よいしょっ、と」  曲げた膝に両手を乗せて腰を伸ばし、土のついてしまったズボンをパンパンと叩けば、デミグラブから覗く指先がさらさらとした感触に包まれた。叩いた拍子に土がついてしまったんだろう。両手を合わせて、今度は手を叩くが気持ち悪さが拭えず、仕方なくズボンの太腿に掌を擦り付ければ、幾分かましになった。代わりにズボンが白く汚れて犠牲になってしまったが。  座ってゆっくり考えようとしていたが、日本にいた頃とは状況が違い、この世界には魔物がいる。もし、座っている時に魔物に遭遇した場合、素早く行動を移せる体勢をとっておいた方が良いと考えた。 (ここから治安の良い国に行きたいんだけどなぁ……)  でも安全性が、と服装に視線を移せば今更ながらに服が異世界用? になっていることに気がついた。簡単にいえば、肩にかけられたゆったりとしたフード付きのローブと昔の軍人のような服だ。デザインはシンプルに上下黒。腰にはサバイバルナイフと麻袋があった。ステータスに表示されていたのにすっかり忘れていた。再度、ステータスを表示し確認すれば、麻袋が所持金の登録収納になっていることに気がついた。  麻袋の紐をといて中を見れば、麻袋の底が見えるだけで何もなかった。お金はここじゃないのか? と首を傾げる。所持金は無限だから、手を突っ込めば出てくるのかな、と一度入れてみれば、麻袋の中が真っ黒に染まって突っ込んだ手を包み込む。その現象にギョッとして手を抜けば、 「……」 (マジか……)  いつのまにか、掌には三枚の金貨が乗っていた。ふとそこで疑問に思う。 (金額指定はできるのかな?)  もう一度、麻袋に手を突っ込んで先程の金貨を離して、今度は"金貨二十枚"と念じてみる。すると、麻袋の中で拳作った掌に違和感を覚えて引き抜き手を広げた。 「うわっ、と⁉︎」  ジャラジャラジャラジャラ……  ぶわっと噴水のように勢いよく飛び出して、掌に収まり切らなくなった金貨は地面に溢れてしまった。溢れた金貨を拾い集めながら数えてみれば、ちゃんと金貨二十枚あった。  原理としては、手を入れて念じる→指定したお金が圧縮し掌に入る→麻袋から手を出して広げると本来のお金の大きさに戻る、といった感じだ。 『お支払い金額は、金貨◯◯枚です』ならいいけど、『お支払い金額は、◯◯G(ゴールド)です』なんて言われたら、「え、何? その単位……」ってなってしまう。そしたら間違いなく、ぼったくりにあうな……。私はいいカモになるというわけだ。  ともかく、お金の支払いに関しては困らずに済みそうで安心した。念じれば必要金額が出てくるのだから。
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