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「たった独りで、何してるの?」
「喉が……乾いたから、ジュースを買いに、」
「二時間も歩き続けて?」
手をぎゅっと握り締めて、ずっと後ろをついて来たその人を睨みつけた。
たいして困ってもいないのにそっと眉を下げて笑いながら、彼は言う。
「嘘つきは泥棒の始まりだよ」
「…………夜遊び、だったらどうです」
「すごいパワーワード放つね、君」
三日月型にその瞳が弛む。
向かい合わせになる様に場所を移動した彼は、私に向かってその腕を伸ばす。
竦んだ身体を解く様に、そっと肩に触れて笑う。
「嘘つきは泥棒の始まりだと知って、君はそれでも嘘を吐く?」
「……苦しい時に救われるの、ならば」
罵詈雑言や暴力から逃れることが出来るなら、それが罪だと知っていても、私は誰にだって嘘を吐く。
「苦しみから、逃れる方法、教えてあげようか」
「簡単に、言わないで」
できっこない。
いつも大人はそう言うけれど、それが嘘だと知ったのは、いつだったか。
解決法などない。
生きていくには、自分で自分を護るしかないのだ。
「大丈夫、僕は、君を護れるよ」
夜の世界で月に照らされた彼は、私の肩をそっと撫でる。
涙腺だけが弛んで、感情が瞳に膨らんでいく。
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