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苦しい。
今すぐ与えられるぬくもりに縋りついて、泣き出してしまいたくなった。
「他愛もない話しか出来ないけれど、それでも良ければ、僕と一緒においで」
「……出来るの、本当に」
にこりと笑った彼は、私の言葉に大きく頷く。
「苦しみを、僕と分け合いっこして、僕と一緒に、世界から、逃げよう」
嘘だ、と思ったけれど、紡ぎ出される言葉の優しさに、世界が歪んで仕方がない。
いつも私が求めていた物――……それは、真っ直ぐな愛情であり、柔らかなぬくもりで。
出逢ったばかりの見知らぬ人に、ついて行くなどイカレてる、そう思いながらも。
萌黄色のスエットに包まれたその腕に思わずそっと指を伸ばして触れてしまった私に、彼はゆる、と笑って言う。
「嘘吐きお嬢さん、お名前は」
「――……波多見、流華」
掠れた声でそう言えば、漢字を聞かれたので「流れる華」と説明する。
「流華、流れる華かぁ、いい名前だなぁ」
ああ、この人は夕陽だ、とそう思った。
たとえ、これがすべて嘘だったとしても、もう遅い。
今の私には、後戻りという文字は無いのだ。
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