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大丈夫、とそう言った彼の言葉通りに、私達は平和で優しい時間を過ごした。
「タケル」
「流華? どうした?」
タケル、と音だけ知っている名前を呼べば、いつも彼は傍に来てくれる。
流華、とその名をしっかり呼び返してくれた。
確かにそれは、私の幸せであり、私の望んでいた世界。
「今まで私、独りぼっちで生きられるってそう思っていたの」
伸ばした指先を、タケルの髪に触れさせれば、柔らかな感触が伝わってきて。
「天涯孤独で生きていくんだわって思ってたけれど、もう、無理みたい」
「いい事だね、人間って言うのは、独りでは生きていけないんだよ」
「漸く知ったわ、誰かと笑い合うのって、こんなにも幸せだったのね」
寝ころびながらひとつの白いシーツに包まれて、足を絡めてそう言えば、タケルは私の頭をその手のひらでそっと撫でていつも通りに笑った。
タケルが笑っていると知れるのは、今この瞬間、私だけで、私が笑っていると知れるのも、今この刹那、タケルだけ。
けれど、それがこんなにも、幸せなのだ。
誰かと共に同じ感情を共有することがこんなにも尊い事を、タケルは私に教えてくれた。
大して何もない、小さな2DKの部屋の中だけだったとしても、ここは確かに私の天国。
苦しみなどひとつも無い。
いつまでも、ずっと続いて欲しい時間に包まれた私は、我儘という名の欲望を取り戻す。
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