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「タケル」
「流華?」
「カレンダーみたい、みせて」
手を差し出せば、タケルは柔らかく笑って眉を下げる。
「流華は知らなくていい」
「いつもそう言うじゃない」
「いい子だから、我儘言わないで」
デザート代わりの林檎をフォークで突き刺して、タケルはそのまま口に運ぶ。
分解されていくその果実をただじっと見つめた。
「タケル」
「流華? 今度は何か、」
「カレンダーが駄目なら、スマホが欲しい」
言いかけたタケルの言葉を遮る様に欲望が躍り出た。
大抵の事には笑って頷くタケルだけれど、今日は笑って首を振った。
タケルの表情はいつも通り嫋やかで、とても柔らかいのに、どうしてか哀しみが滲んでみえた。
溜息を飲み込む様に喉を鳴らした彼は、私に向かって言葉を落とす。
「スマホは、駄目」
目を逸らしてそう言った彼の声は、冷たい氷が木霊しているみたいに思えて、私はそれ以上何も言えなくなった。
タケルは私に向かって無理矢理笑って、半分残った林檎に齧りついた。
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