事情 3

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事情 3

 お花は喜兵衛の子を妊娠していた。喜兵衛には位の高い武家出身の厳格な正妻がいた。そのうえ喜兵衛はもう定年になろうという年寄りだった。喜兵衛は伊右衛門に、お花を引き受けてくれと相談を持ち掛ける。伊右衛門にとっては願ってもない話である。  いよいよ私の存在が邪魔になった伊右衛門は、何とか私の方から別れ話を切り出させようと喜兵衛と共謀して、卑怯(ひきょう)な手段を画策する。  伊右衛門は毎晩のように酒に溺れ、私に激しい暴力を振るうようになった。理由もなく殴る蹴る、押し倒して踏みつける。目障(めざわ)りだと(ののし)り手当たり次第、物を投げつける。  その上、私は毎晩、身体を丈夫にする漢方薬だという舌先が痺れるような苦い薬を、伊右衛門に強引に飲まされた。
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