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物語は前へと進む
呪術学の専門家でもあるテレサの私室には大きな天窓がついている。
部屋の天井の半分を占める天窓から、月光を取り入れるためだった。
呪いはかけるには素材が必要であり、その素材を生成するには月の光が必要になる場合が多い。
数ある呪いを生み出したマリアが月の魔女と呼ばれる1つの要因ともなっている。
テレサはそういった呪いの性質上、夜中に作業することが多い。
とくに今夜は雲1つない晴天で、満月の光がたっぷりと降り注ぐ絶好の日和だった。
テレサは天窓の下に机を設置し、机の上にできるだけ多くの呪いの材料を並べる。
月光を浴びてキラキラと輝くそれらに命を吹き込むように、大切に大切に呪いを素材を生成させ、ストックとして保管していた。
そんなテレサのもとにコンコンとノック音が聞こえた。
控えめなその音の後は何もなく、テレサの反応を待ってるようだった。
今日の天文台で起きたことはテレサも知っていた。
3人の生徒が何やら騒ぎを起こし、月の魔女についても大きな収穫があったらしい。
詳しいことは明日聞くことになっていたが、それだけで、テレサには自分のもとに誰かがくるとわかっていた。
相変わらず自分から開けようとしない訪問者にテレサは困ったように微笑み、テレサからドアを開けた。
「来ると思ってた。またお父さんと揉めたんだろう?」
ドアを開けた先に立っていたのはヘレンだった。
髪を下ろしたまま眼鏡だけかけて来たその姿は、いつもと変わらないスーツを着ていても、とても疲れ切っているように見えた。
「大丈夫だよ、なかにどうぞ。」
テレサに促されてはじめて、ヘレンは部屋のなかに入った。
ふらふらとして、体を庇うような歩き方をする。
テレサは見慣れているのか、あえて聞いたり、肩をかしたりしなかった。
「紅茶をいれよう。あなたが好きな紅茶に……」
テレサがヘレンに背を向け、魔法で紅茶やカップを手元まで呼び出すと、テレサの背中にずしりと重さを感じだ。
ヘレンがテレサの背中に抱きつき、目元をテレサの肩にうずめる。
「……いつもどおりにしてください。」
「わかってるよ。」
ようやく口をきいたヘレンにテレサはやれやれと小さくため息をした。
なかなか素直になれないヘレンの行動にテレサはつい顔を綻ばせてしまう。
「砂糖2つにミルク多め、でしょ?」
今夜は呪いの素材作りには絶好の日和だった。
できればもう少し作りたかったとテレサは思いながらも、久しぶりの彼女のわがままにつきあってあげることにした。
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