黄昏星

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 村長の息子として生まれたライと違い、フィナは別の場所から流れ着いたよそ者だった。9年前、月星も太陽も見えない嵐が3日3晩続いたことがあった。4日目にやっと晴れて、住人たちが海岸を見に行くと、たくさんの流木に一艘の小舟が紛れ込んでいた。小舟の底に括りつけられた木箱の中には、目の見えない赤ん坊が入っていた。フィナだった。  荒れ狂い、牙をむく海をどのようにして小舟とフィナが耐えたのかは分からない。フィナが木箱の中に入っていた理由も、どこから来たのかも、親がどこにいるのかも、何もかもが謎だった。  しかし島民たちにとって、フィナが何者であるかは興味のないことだった。それよりも問題だったのは、フィナが色も光も分からないことだった。空を見上げ、星と交流することを尊ぶ島民たちにとって、夜空とその星々を捉えられない盲目の人間は扱いに困る存在だ。  そんなフィナを島に住む老人が引き取った。老人は若いころ、外の世界で、フィナと同じように目の見えない女と結婚していた。女が病で死んでから、老人は生まれ故郷の星詠み島に戻ってきたのだ。老人はフィナに、女との結婚生活で得た知識だけでなく、この島の歴史と生活についても教えていった。おかげでフィナは目が見えずとも、他の子どもたちと遜色なく朗らかに育った。  その老人も2年前に死んでしまい、フィナはライの願いによって、村長の家に住むことになった。しかし、島の家族として受け入れられたわけではない。 「見て、ライ。エウリタがいつもよりキラキラしてる」  村のすぐ前でフィナは立ち止まって、空を仰いだ。エウリタというのはこの季節だけに現れる一等星のひとつだ。その温かくて大きな光は、月と同じくらい島民に愛されていた。  ライにも島民にも理解できない形だけれど、フィナは確かに星を見て、空を愛していた。  星を想っているのなら、目が見えなくても立派な星詠み島の民だ。それが大人たちに伝わらないことが、ライには歯がゆかった。
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