黄昏星

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 ライが目を開けたとき、空に星は見えなかった。どうして空がこんなに暗いんだろう、とライはぼんやり思った。背中が冷え切って、ライはくしゃみをした。体に力が入った途端、鈍痛が走る。 「いてて…」 「ライ、起きた?」  ライが身を起こすと、レギの声が聞こえた。目を凝らすと、少し離れたところでレギが横になっていた。ライはそこでやっと自分とレギが常闇の森にいたこと、2人とも崖から落ちて意識を失っていたことに気づいた。  ライは慎重に立ち上がると、崖の上を見た。薄暗いせいで高さがどれほどあるかは分からないが、ライはむき出しの木の根をつかんで崖を登る。崖の途中には奥行きが深いくぼみがあり、中には青白く光るミノキノコが群生していた。他にもくぼみはいくつかあり、例外なくミノキノコが生えている。 (これがあれば明かりに…!)  だがミノキノコを採ったとき、つかんでいた木の根が重みに耐えられずにぶつりと切れた。そのまま崖下に逆戻りし、尻もちをついてしまう。重い音がして、持っていたミノキノコが散乱した。 「ライ、大丈夫!?」 「な、なんとか」  レギの声がすぐに飛んでくる。ライはため息をつきながら立ち上がった。散らばったミノキノコを集め、柄を細い木の根で縛る。火や星の明るさには遠く及ばないが、近くのものを照らすには充分だ。 「ら、ライ」  崖や周辺の安全を確認していたライは、レギの弱々しい声に眉をひそめた。その時になって、違和感に気づく。先ほどからレギが一向に立ち上がらないのだ。 「足を見てほしいんだ。左の足」 「……折れたのか?」 「違う、けどすごく痛い」  ライはレギに近づき、ミノキノコをかざす。レギの足の下でトギバヤの花がつぶれていた。レギの左足には切り傷ができており、周辺に斑点が浮かんでいる。明るい緑色の斑点をしたその症状をライは知っていた。トギバヤの毒によるものだ。去年もこの毒で大人が一人死んだ。  トギバヤは暗い場所にしか生息せず数も非常に少ない花だが、毒性がとても強い。生態も謎が多いため、解毒剤は大陸でも貴重なのだと、船でやってきた商人たちが話していた。
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