黄昏星

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 星詠み島の西海岸は、東海岸と違い、岩が一切なく見晴らしのよい場所だ。太陽が水平線に沈むそのさまは、日中の疲れをいやすほど神々しく美しいものだが、そこに住む島民たちからしてみれば、特別に珍しいものではない。  ライにとっても同じだ。毎日代わり映えのしない日没を見に行くよりも、東海岸にやってくる大陸の人間と話をするほうが刺激的だった。 「フィナ! またここにいたのか」  ライが西海岸の砂を踏んだ時、空は黄昏を迎えていた。昼ほど温かさを持たず、夜ほど藍に染まっていない空はしっとりと甘美であった。  しかし、この島に生まれて10年目のライの瞳には、決まった形の太陽より、膝をかかえて座り込む少女の方がはっきりと映っていた。  砂浜のように白い髪に、黒真珠のような瞳。星詠み島の住人たちは黒髪と青い瞳を持つが、この少女だけまったく違う容姿だった。名はフィナと言った。愛らしい容姿を持っているが、フィナは全く目が見えなかった。 「まったく…! 波にさらわれても知らないぞ」 「ねえライ。黄昏星出てる?」  あっさり文句を受け流されたライは、唇を尖らせながらしぶしぶ答えた。 「なにも。いつもの星空と変わらないよ」  星詠み島には、ひとつの伝説が語り継がれている。  なんでも100年に1度、黄昏時にしか現れない星に願いを告げると、一つだけ叶うそうだ。
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