オカンがオカンでいる時間

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「頭はハゲても、心まではハゲんときや!」 「どういうことやねん」 「お金はどう使うかやで! そんなもん、あんたの人生の勝負時に大きく賭けんでどないすんねん!」  オカンは怒鳴るために止めたファンデーションをもう一度塗ろうとして、 「そのためのダブルインカムやで!」  と、また手を止めて怒鳴った。  そして言い終わって満足したのかまたファンデーションを塗り始めた。 「どこで覚えんねん、そんな言葉」  俺はオカンの優しさをありがたく思った。 「ほな、行ってくるわ」  いつもの夜の仕事着であるタイトなワンピースにコートを羽織って、オカンは玄関へ歩いて行った。 「俺、どうやって日本一のお笑い芸人になるか考えて、また言うわ。ほんで甘えさせてもらいます」 「そうしとき。なんせ、タケシはお母さんの老後を背負って立つ男やからな」 「だから、その老後を背負って立つってなんやねん、って」  オカンは笑って、手をヒラヒラと振りながら夜の仕事へと出かけて行った。  オカンが昼の仕事から帰ってきて、夜の仕事へ向かうまでの間。  その数分間、オカンは俺のオカンに戻るのだ。   -おわりー
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