オカンがオカンでいる時間

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「ただいまー。あー暑い! もう全然本気出さへんやん、秋っ!」 「季節にキレるって壮大やな。おかえり」  肌寒くなってコートを羽織る人も出てきた最近だが、オカンは半袖で帰ってきて、その汗でボトボトのシャツと下着を洗濯カゴに投げ入れた。 「あ、オカン。今度三者面談あんねんけど」  俺は『三者面談のお知らせ』と書かれた紙をヒラヒラさせた。 「あー、お母さん行ったほうがいい?」  こちらの方を見ず、オカンは夜の仕事へ行く準備に追われていた。 「いや、だい」 「アンタの好きにしたらええんやで」  いや、大丈夫。こっちで適当にやっとくわ。と、言おうとしたのに、オカンはその三手先の返事を返してきた。 「大学行くもよし、大学行くもよし」 「大学の一択やん」  オカンが必死で髪をかき上げてかき上げて、盛っている。 「どこまで盛んねん。ヤングコーンか」  今日は気前のいい客が来るのだろうか。  極端なヘアースタイルはオカンなりの誠意なのだろうと解釈した。 「とにかく、後悔せんように」 「後悔?」 「せや。お母さんの老後に『あ~、あの時、しっかりやってたら、今頃ティッシュをおやつにせんでも良かったのに!』てな。」 「なんぼなんでもそこまで落ちぶれんやろ?」  フフッと笑って、玄関でもう一度髪形を確認し、オカンは夜の仕事のため家を出て行った。 「今日は寿司食うて帰ってくるんやろな、オカン。お土産頼むで」  オカンが閉めた玄関のドアチェーンはせずに鍵だけかけて、俺はパンパンと柏手を二回打ち、拝んだ。  そしてリビングに戻って、持っていた三者面談のプリントをクシャっとゴミ箱に押し込んだ。
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