オカンがオカンでいる時間

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「ただいまー」 「おかえりー」  もう十一月だというのに、オカンは相変わらず汗だくで帰ってくる。  ずぶ濡れのTシャツと下着を洗濯カゴに投げ入れて汗拭きシートで体を拭いてから、今日に限っては姿見の前に移動せず、軽くスエットに袖を通し、リビングに寝そべった。 「あれ? 仕事は?」  俺は、冷蔵庫から番茶を取り出して、リビングのちゃぶ台の上にコップとともに置いた。 「なんか、水道管の工事があるから、オープンが30分ほど遅れるんやって」  俺の注いだ番茶をオカンは一気飲みした。俺はもう一杯注いだ。 「そういえば、あの話、あんたの進路相談の話」 「ああ」  俺はいつからあるのかわからない煎餅を水屋から取り出すと、封を開けてオカンに差し出した。  オカンは煎餅をひと噛みしたあと、変な顔をした。噛んだ時にパリッと音がしなかったので湿気っていたのだとわかった。  俺はオカンが米津玄師の『Lemon』みたいにウエウエ言いながら煎餅を食べるのを見ている間、少し黙って決意を固めていた。  そして胸に詰まっていたものを一気に吐き出すように心の内をオカンに放った。 「俺……、大学には行かんわ!」 「ああ、そうなん」 「あれ? 驚かんの?」  俺的に一世一代の告白だったのに、オカンはさらりと受け流した。
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