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「なんで? あ、もしかして、ドッキリ?」
「芸能人でもないのに、ドッキリってなんでやねん。やなくて、あんだけ大学行けって言うてたのに」
オカンは煎餅をもうひと噛みして、その湿気り具合に食べるのを諦めた。
「あんだけ、お母さんが言うてても、あんたは別の道を決めてんやろ? そんならそういうことやんか」
「オカン……」
俺は鼻の奥にツンとしたものを感じた。
感じて、あ、まだ大事な事言うてないと思い出した。
「そんでな、俺、お笑い芸人になろう思てんねん」
「お笑い芸人!」
オカンはお腹を押すと鳴く黄色い鳥のオモチャみたいな声を出した。
今度こそ反対されると思った。
反対される前に自分の想いの強さだけは伝えたい。
「オカンが将来に不安を感じて反対する気持ちもわかる。でも、俺、どうしてもなりたいんや」
俺はちゃぶ台を挟んでオカンの正面に正座した。そして、頭を下げた。
オカンはそんな俺の真剣みを受け流した。
「なんか熱いけど、お母さんは別に反対してへんで」
「え?」
俺は顔を上げた。
「せんど言うてるやん。後悔するかせえへんかやって。せやなぁ、お笑い芸人やったら、落ちぶれてティッシュをおやつにしても楽しそうやしな」
「なんか、呑気やなぁ。息子のこと心配やないんか?」
なんだかナーバスになっているのが馬鹿らしくなってきた。
俺は正座を崩し、胡坐をかいた。
オカンはお茶と煎餅の為に体を起こしていたが、いよいよきちんと話をしなければと、まっすぐに座り直して俺を見つめた。
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