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今度は来た時とは反対周りでお亀池のそばの遊歩道を歩く。
「こっちのススキはまた、背が高いなぁ」
男にしては身長が低い僕は、穂先を見上げる形になる。
「昂の背より高い」
くすくす笑った山羽に、
「悪かったな」
と頬を膨らませる。
山羽は相変わらず上機嫌で歩いている。反対側からやって来た観光客とすれ違ったが、もちろん、他の人には山羽の姿は見えていない。
すると、不意に山羽が「あら?」と声を上げた。
「何?」
釣られて彼女の視線の先を見ると、着物姿の若い女性が1人、池を見つめて立っていた。儚げな雰囲気の綺麗な人だ。着物と言っても柄ものではなく、地味な色合いで、髪形は、まるで江戸時代の婦人のように髷を結っていた。
目立つ女性なのに、彼女に目を向ける通行人はいない。
おかしいなと思っていると、山羽がすっと彼女のそばまで近づいて行った。物思いにふけっている様子の女性の肩を、トントンと叩く。
(山羽、何してるんだろう。声をかけても、山羽の姿は人から見えないのに)
僕はそう思ったが、女性はハッとした様子で山羽を振り向くと、目を丸くした。
「あなた……私が見えるのですか?」
「見えるわよ。こんなところで何してるの?」
女性と山羽は普通に会話をしている。そこで僕はピンときた。
(あの女性も霊なんだ)
服装から察するに、かなり昔の霊なのかもしれない。
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