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僕も、山羽と女性の元へ近づくと、とりあえず女性に向かって「こんにちは」と会釈をした。
「こんにちは。あなたがたは一体……?あなた方も霊なのですか?」
女性が不思議そうな顔をしたので、
「僕は生きている人間だけど、こっちの山羽は霊だよ。僕は藤谷昂っていいます」
と自己紹介をした。
「昂さんと山羽さん、ですか。私はおかめといいます」
女性はそう名乗った。
(ん?おかめ?お亀池と同じ名前だなぁ)
この池の主の地縛霊か何かなのだろうかと考えながら、
「もしかしておかめさんはこの池に住んでるんですか?」
と問いかけると、おかめさんは曖昧に頷いた。
「住んではいますが、いつからここにいるのか分かりません」
「分からない?」
「はい。自分が何者なのか、どうしてこのような姿になってしまったのか、覚えていないのです」
山羽も生前の記憶がないというし、霊になると、色んな事を忘れてしまうものなのかもしれない。
「そうなんですね」
「ただ……」
僕が相槌を打つと、女性は悲しそうな瞳で俯いた。
「ただ?」
「朧気に覚えていることがひとつだけあります。私には子供がいたのだと。生まれたばかりのその子を残して、私は死んでしまったのだと」
「……!」
女性の言葉に、僕は胸がつまされた。どういう状況で亡くなったのかは分からないが、きっとおかめさんはやり切れない思いだっただろう。
「それはお気の毒なことね」
山羽はおかめさんを慰めるように肩に手を置いた。おかめさんが顔を上げ、弱々しく微笑む。
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