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おかめさんは、
「私はたぶん、もう一度その子に会えないかと、ここで待っているのだと思います」
自分の気持ちを確認するようにそう言った。
「どんなお子さんだったんですか?」
見たところ、おかめさんは数百年前の人だろうと思うので、どんな赤ちゃんだったのか聞いても探すことはできないと思いながらも、僕は尋ねていた。
「女の子だったように思います。朧気に覚えているのは、首筋に花のような痣があったことでしょうか」
「痣ですか」
「はい。綺麗な体で産んであげられなくてごめんねと、思ったような気がします」
「…………」
僕はそれ以上何も言えなかった。現代に生きる僕には、おかめさんと赤ちゃんを会わせてあげることは出来ない。
おかめさんは僕の気持ちを察したのか、
「どうぞお気になさらず。どうしたって我が子には会えないのだと、私は分かっているのです」
と微笑んだ。
山羽がおかめさんの手を取って、ぎゅっと握った。
「つらかったら、待たなくてもいいのよ。私たちが生前のことを覚えていないのは、きっと、つらい記憶を思い出したくないからなのよ」
「そうですね……」
おかめさんは山羽の手を握り返すと、泣き笑いのような表情をみせた。
「私はもう少しここにいます。昂さん、山羽さん、話を聞いて下さってありがとうございました」
上品なしぐさで頭を下げたおかめさんに、僕たちは「さようなら」を言うと、その場を離れた。
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