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「失礼ですが、その痣、どうされたんですか?」
僕は勇気を出して聞いてみた。すると、
「ああ、これか?生まれた時からあるんだ。亡くなったおふくろは、この痣のことを気に病んでいて、『痣なんてついた体で産んでしまってごめんね』と謝られたことがある。俺はむしろ、選ばれし者のような気がして気に入っていたんだけどな。ほら、滝沢馬琴が書いた『南総里見八犬伝』てあるだろう?あの話に出て来る八犬士は、体に牡丹の形の痣があるんだ」
「へえ~」
『南総里見八犬伝』という物語があることは知っていたが、読んだことはなかったので、僕は曖昧に相槌を打った。
「実は八犬士の生まれ変わりだったりしてな」
男性は本当に痣のことを気に入っている様子で、面白そうに笑った。
(生まれ変わり……)
その言葉に、再び、おかめさんの顔が脳裏に浮かんだ。
(やっぱり、そういうことってあるのかな)
この男性が、おかめさんの産んだ赤ちゃんの生まれ変わりだという可能性を再び考えて、僕は居てもたってもいられなくなった。
「あのっ、すみません。この後、僕と一緒に曽爾高原に行ってもらえませんか……?」
おずおずと頼んでみると、男性は目を瞬いて、
「なんでだ?」
と不思議そうな顔をした。
「バイク、見せてもらいたいなって思って。走ってるところ、見せて下さい。それに、もしかしたら、お亀池で、その夢の女性に会わせてあげられるかもしれません」
僕の言葉に、男性は首を傾げた。
「バイクを見せるのは構わないが、どうして俺の夢の女がお亀池にいるって思うんだ?」
「それは……」
僕は言いよどんだ。霊がいると言っても、きっと信じてはもらえないだろう。
「実はさっき、お亀池で不思議な女性に出会ったんです。その人も、あなたと同じような夢を見ると言っていました。夢に出て来る首筋に痣のある男性のことが気になるから、お亀池に来て、待っているのだと言っていました。……信じてもらえないかもしれないけど」
半分本当で、半分嘘だ。果たして、この男性はどんな反応を返すのだろうと思っていたら、はははと大笑いされた。
「おもしろいことを言う兄ちゃんだなぁ。いいよ。本当にそんな女がいるのか、一緒に行ってみよう」
「ありがとうございます……!」
「じゃあ、早速行こうか。俺はそろそろ湯にのぼせてきた」
湯船から立ち上がった男性は、タオルで前を隠すこともなく、露天風呂の出口に向かって歩いていく。僕は、急いでその後を追った。
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