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スマートキーを押し、シートを開けると、バックパックを放り込んだ。荷物をしっかり積めるのも、お気に入りポイントだ。
アイフォンをホルダーにセットして、ナビの用意をしていると、
「随分ご無沙汰だったわね。昂」
と艶やかな声が耳元で聞こえた。手を止めて振り返ると、すぐそばに、先程まではいなかった、白いワンピース姿の若い女性が立っていた。長い黒髪と、パッチリとした瞳がチャーミングな女性だ。
「忘れられているのかと思ったわ」
拗ねたように唇を尖らせる彼女に、
「仕方ないだろ。外出を自粛してたんだから」
と答える。
「今日は私に乗ってくれるのよね」
「うん。久しぶりに一緒に出かけよう。マジェ子」
そう言うと、女性は頬を膨らませた。
「その呼び方、やめてって言ってるのに!ダサい!」
「だって、『マジェスティ』なんだから、マジェ子だろ?」
笑いながら返したら、女性は僕の腕をバシンと叩いた。
「痛いな、もう」
「言い直して」
「分かったよ。山羽」
僕が名前を呼ぶと、女性――山羽はようやく機嫌を直してくれた。
山羽は、僕の愛車に憑いている霊だ。生前の記憶がないらしく、バイクメーカー、ヤマハ発動機から名前を借りて、僕は山羽と呼んでいる。
「本当に、お前は謎だよなぁ。素性が分からないって言うんだから」
「別に忘れていても支障ないし」
山羽は能天気に言うと、肩をすくめた。
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