僕とバイクとユーレイの君

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 僕が『マジェスティ』を購入した時、シートの裏に、小さなお札が貼ってあった。シールのようなもので、おそらく、中古バイク販売業者も大したものじゃないと思って放っておいたのだろう。なんとなく気になって、僕はそれを剥がすことにした。すると、現れたのが山羽だった。彼女曰く、お札で封じ込められていたらしい。  それ以来、彼女は僕のバイクに憑いている。  僕は途中で手を止めていたナビの設定をやり直そうと、アイフォンに向き直った。液晶画面に手を滑らせていると、 「にゃ~ん」 と足元から声が聞こえた。視線を下ろすと、1匹の黒い猫が、前輪タイヤの横から、緑色の目で僕を見上げていた。首輪はつけていない。時々このマンションにやって来る野良猫だ。バイク用駐車場はマンションの裏手にあり、バイクの持ち主以外、人もあまり来ないうえ、日当たりもいいので、このあたりで時々、昼寝をしている姿を見かける。 「やあ。天気がいいから、今日も昼寝に来たの?」  そう問いかけると、猫は尻尾を揺らして、 「そうだよ。今日は気持ちがいい気候だよね」 と答えた。――空耳などではない。人間の言葉として、僕の耳に入ってきた。   普通の人なら、ここで「猫が喋った!?」と驚くところだろうが、僕は驚かない。 「きっと昼寝にぴったりだと思うよ。僕はこれから山羽と一緒にツーリングに行くんだ」 「そうなんだ。楽しんできてね」  猫は返事をすると、身を翻した。ゆらゆらと尻尾を揺らして去っていく。その尻尾の先は、二股に分かれている。 「猫又ちゃん、待って!行く前に、モフらせて!」  慌てた様子で山羽が猫――猫又の妖怪だ――を追いかけた。途中で追いつきガバッと抱き上げ、頭に頬ずりをする。猫又は、 「山羽ちゃん、くすぐったいよぉ」 とほのぼのした声を上げている。
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